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物憂げだよ。
もう眠れないからだ。これ以上深い眠らずの底におれは落ちていきたくないんだ。だけどだめそうだ。もう深いところまで来ちまった。
おれがもがけば泥のように眠らずが絡み付いてくる。そうするとやけに時計の音だけがはっきりしやがって、おれはおびえる。
「もういいだろ」
頼むから、辛いんだよ。
おれは逃げたいんだ。お前からいなくなっちまいたいんだよ。考えると追ってくるのはよしてくれ。いやらしいよ、そんなの。
「君が先に仕掛けたことだろ」
ぼくは仲良くやりたかったんだ、ずっと先まで、とそいつは言う。
「君とは色々あったさ。そしてそれを乗り越えて一緒にやってきた。でももうだめだよ。君は背いた」
やさしく、おれは眠らずに抱かれる。
「やめてくれ」
はなしてほしい。つらいんだ。
そいつは眠らずを束ねていた。世界中の眠らずがそいつの手元にあった。眠らずは俺の布団にもぐりこんで俺のこころを塗りつぶしていく。
「眠れない君のなんて愉快なことか」
そいつはまだらに笑う。その笑い方は好きだった。夏が始まる前までは好きだったよ。まるで、おまえがそこにいるかのようでさ。
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