第一章

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 ──はずだった。  それを妨げたのは、風の音にも等しいくらいに小さく聞こえてきた名前だった。 「──荒川、縁〈あらかわ ゆかり〉……です。宜しくお願いします」  閉じかけていた目をゆっくりと開く。そして教卓の方へ視線をやる。もはや反射的にといっていいくらいの動きで。  そこに居たのは、周りから浴びせられる拍手に圧され気味の黒髪の少女だった。 「荒川、席は右端の飯沢の後ろでいいか?」  その問いに小さく頷くと、荒川縁はおどおどした様子で自らの席に向かう。  俺の視線は未だに彼女に釘付けで、“荒川縁”という名前が頭の中で何度も復唱されている。  だがそれも終わりが来て、彼女が席に着いた頃、俺の記憶の中にあった断片的な欠片たちが一つの塊になった。  ──縁って、あの縁か……?
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