第一章

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 小さい頃、まだ幼稚園の時だっただろうか。俺は縁ととても仲が良かった。  毎日のように服が汚れるまで遊んで、その度に母親や先生に怒られてたっけな。  だがある時、縁は俺の前から姿を消した。いや、単に引っ越しただけなんだが、当時の俺にはそう思えたのだ。  確かあの時、馬鹿みたいに大泣きしたんだっけ。  どうやら俺は知らない間にガキの時の思い出を忘れていたらしい。  まあ、何年も前のことなんて、誰だって朧気にしか覚えてないか。  また一度、縁の方に視線をやる。  やはりその姿は、俺の記憶にあったものとほとんど同じだ。 「……?」 「──!」  俺の視線に気付いたのか、縁がこちらを向く。  交わされた視線と視線。俺は咄嗟に黒板の方へ視線を戻していた。  理由はわからない。なんとなく、反射的にってやつ。  でも、何かしら話さなくては、と思った。俺が自分から接触を試みるなんてずいぶん久しぶりなもんだな。  その後、俺は教師の話なんて耳に入れず、どう話し掛けるかをずっと考えていた……。
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