きっかけ

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書き終わるとみんなが 「うん、こっちの方がわかりやすい!」 「さすが井上!」 と言い出した。 みんな黒板を見て頷いている。 ただ、その中で黒板を見ずに下を向いている山平 彩子。 俺は発言をしながらも、あいつのことを見ていた。 みんながこっちの方がいいって言っていても顔を上げない。 ましてや俺が発言している時にも顔を上げない。 普通気になるんじゃねーの? どんなことが書いてあんのか普通見るだろう。 なのにあいつは顔を上げないどころか手さえも動かさず、膝の上に置いている。 何も興味を示さないあいつに俺は少しだけ苛ついた。 「先生。」 俺はまた手を挙げた。 「今度はどうした?」 ―――…意地でも俺に興味を示させてやるよ。 俺はチラッとあいつを見ながら言った。 「四角の升の中にクラスの人数分の数字を小さく書いてくれませんか? いちいち番号を数えるのも面倒なので…。」 「そうだな。 袋の中に数字が書いてあるのに黒板には書かない。 それも可笑しな話だな。」 先生は自嘲気味に笑いながら慣れた手つきで数字を書いていた。 こんなやり取りをしていてもあいつは反応しない。 俺はどう足掻いても、もう無理だと言うことを悟りあきらめざるを得なかった。 そしてとうとう順番が回ってきたようだ。 「はい!」 前のやつがそう言って袋を渡してきた。
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