僕は見たんだ。

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僕は見た。 それは不思議な…もの?こと? それが何かは、うまく説明出来ないけれど。 とにかく、不思議な光景だった。 一秒ごとに、目の前の草原が、赤、橙、黄、緑、青、紫、黒、白、と、色を変えていく。 少し先に見える木には、桃と林檎と蜜柑が一緒に実っていて。 風はほのかに甘い、なんとも心が落ち着く香りで。 遠くに見えるのは、緑の草原。 どうやら、ここだけがこんなにも、綺麗で奇怪な風景らしい。 僕は気分が良かった。 自分が特別になった気がして。 そして、この特別を、誰かに教えたくて、歩いた。 歩いて、歩いて、歩き続けた。 けれど何かおかしい。 終わらない。 この特別な風景が終わらない。 遠くには、確かに、普通の草原が見えるのに。 近付けない。 振り返ってみる。 何もない。 何もない? それはおかしい。 僕は確かに、この特別な風景を歩いて進んで来たのに。 僕が振り返って見た景色は、真っ白だった。 それが壁なのか、どこまでも続く平地なのかもわからない。 やめよう。 先に進もう。 振り返ってはいけない。 僕はこの特別な風景を、誰かに教えたい。 誰に? わからない。 探す。 この特別な風景の中には、誰もいない。 だから普通の風景に行って、誰かを探すんだ。 歩いた。 前を向いて、歩いた。 もう、どのくらい歩いたかもわからない。 でも。 着いた。 普通の草原だ。 目の前にある。 あと一歩進めば、普通の中に行ける。 一歩、踏み出した。 来た。 普通の草原だ。 走った。早く、早く走った。 誰か、誰か、誰か。 誰か聞いてくれっ。 僕はとても素敵な景色を見つけたんだっ。 いたっ。 女の人だっ。 ここに来て、初めて見る人。 僕と同じくらいの年齢に見える。 ねぇ、君、聞いてくれっ。 僕はとても素敵な景色を見つけたんだっ。 その子は言う。 そんなものどこにあるの? 僕の後ろ。 一面に見えるだろう? その子は言う。 あなたの後ろ? そうね、真っ白で綺麗な景色だわ。 え? 僕は振りかえる 真っ白だった。 気付いていたはずだ。 僕が通ってきた場所は、真っ白になることを。 そうか。 そうなんだ。 僕は あんなにも綺麗な景色を消してしまったんだ。 それでも、いや、だからこそ僕は教えたい。 その子にあの景色を。
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