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「あっ!咲いたよ!
ほらほら、飲んでみて。」
湯呑みの底の桜がゆっくりと開くのを見て、急かすように言う。
男が、湯呑みに口を着ける。
緑茶のほのかな苦味が、桜の花の香りを引き立てていて、
周りを桜に囲まれていたにも関わらず、花見に来てから一番桜の香りを楽しめているようだ。
一気に飲むのはもったいないと感じたのか、最後の一滴までゆっくりと飲み干す。
「……おいしかった?」
うどんげが間をおきながら心配そうに尋ねる。
男はうどんげの問いかけに対して、
「味ももちろんおいしいけど、それ以上に良い香りがする。」
と答えながらうどんげの長くサラサラした髪に指を通す。
「でも、うどんげの髪の香りの方が好きだな。」
そして微笑み、髪を撫でながら言う。
「も、もう!
何言ってるんですかあなたは!
あ、そういえば師匠に持って行けって言われてた物があったんだった!
どこにしまったっけ!」
顔を真っ赤にしたうどんげは話を逸らしつつ、
顔を見せないように荷物の中に手を入れ、何かを探す。
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