2/4
前へ
/25ページ
次へ
彼らの後をついて行くと、そこには多くの人間が集まっていた。 既に日が傾き、よく開けた街からは山に姿を隠そうとする夕陽がよく見え、光が余すことなく辺りを包み込んでいる。 人々は忙しなく動いており、米の炊き上がる匂いと共に白い煙が立ち昇る。 人々が皆自然に畏敬の念を抱いていた遥か昔とも変わらないそれは、むしろ平和なように思えた。 人の営みはいくら変容しようとも、絶えることなく続いているのだ。 美味そうな匂いに導かれるようにして又兵衛は忍び足で近づいていった。 握り飯と味噌汁だろうか。 列を成す人々の手の手には順番に白い米と器が渡されているようだった。 「あ、ねこだ!」 あれは何の味噌汁だろうかと想像していると、人の群れから子供の声が聞こえた。 声の主と思しき男の子は群衆から外れて、又兵衛に近づいて来る。 純粋な好奇心に満ちた顔は、少し泥で汚れていた。 子供が手を伸ばすと、むわっと人の臭いが押し寄せてきた。 思わず身を固める。 しかしそうとも知らない子供は、嬉しそうに又兵衛の大きく膨らんだ黒い毛並みを一撫でした。 やがて撫でるだけでは飽き足らず、男の子は腕を又兵衛の腹に回し、ぐっと力を込める。 足が僅かに浮き、腹が締まる。 「おい離せ、この童めが!いくらわしが寛容といえども、こればかりは我慢ならぬぞ!」 又兵衛の叫び声も空しく、男の子がよいしょと呟く頃には、すっかり又兵衛の足は地面から離れていた。 いくら又兵衛が抗議の声を上げても、彼の耳には猫が鳴き喚いているようにしか聞こえない。 全く不便極まりないものだ。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加