4/4
前へ
/25ページ
次へ
不意に足元に感覚が伝わってくる。 地面に下ろされたらしい。 足元に気をつけながら、周囲を確認する。 そこは未だ片付け終わらない瓦礫の山と、人々の群れのテリトリーの境界の辺りだった。 「ここではお前の世話は出来ないんだ」 ごつごつとした手からは想像もつかないような、柔らかい声色で男が言った。 又兵衛はその意味を解しかねて、やや首を傾げる。 「すまないがお前みたいなのを、ここに置いとけないんだよ。 分かったら余所へ行ってくれ」 又兵衛と男の視線が合致する。 ぎょろりとした眼には夕陽が映り込んでいる。 「わしはおまえなぞに世話などされんでも生きていけるぞ」 又兵衛は伝わらない言葉で言うと、尾をピンと立てて踵を返し、瓦礫の上から跳び下りた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加