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不意に足元に感覚が伝わってくる。
地面に下ろされたらしい。
足元に気をつけながら、周囲を確認する。
そこは未だ片付け終わらない瓦礫の山と、人々の群れのテリトリーの境界の辺りだった。
「ここではお前の世話は出来ないんだ」
ごつごつとした手からは想像もつかないような、柔らかい声色で男が言った。
又兵衛はその意味を解しかねて、やや首を傾げる。
「すまないがお前みたいなのを、ここに置いとけないんだよ。
分かったら余所へ行ってくれ」
又兵衛と男の視線が合致する。
ぎょろりとした眼には夕陽が映り込んでいる。
「わしはおまえなぞに世話などされんでも生きていけるぞ」
又兵衛は伝わらない言葉で言うと、尾をピンと立てて踵を返し、瓦礫の上から跳び下りた。
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