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瓦礫の下で夜を明かした又兵衛はしっかりとした足取りで、相変わらず広い空の下を歩いていた。
かつて通った塀はどこかへと消え去り、記憶の景色の面影は失われていた。
塀を乗り越え、道路を渡り、偶然に辿りついたあの家はどうなっているのだろう。
縁側で微笑むはるさんの姿を瞼の裏に描きながら、逸る気持ちを抑えつつ足元に細心の注意を払って進む。
河原に沿って作られた線路はあちこちにガタがきているようだったが、瓦礫はほとんど無く歩くのには都合が良かった。穏やかな日和に思わず顔がほころぶ。
風が音を立てて過ぎ去っていった。
異臭を含む、少し気持ち悪い風だった。
しかしその中に嗅ぎ覚えのあるものを見つけると、又兵衛は駆け出した。
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