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空が広い。
そう思ったのはいつ以来だろうか。
又兵衛は尾を振りかざして、大量に積み重なる瓦礫の上にいた。
久しぶりに人里に下りてみればこの有様だ。
かつての賑わいの面影は露ほどもない。
雲ひとつ見当たらない空は、下界を嘲笑するかのようだった。
ひょいと腰を持ち上げると、瓦礫の上から飛び降りた。
地面が近づくと、気味の悪い臭気が強くなる。
火の手こそ見て取れないが、この場所であまたのものが焼け落ちたのだろう。
木の燃えた臭い、人が作り出したものが焼けて溶けた臭い、様々な臭いが集まったそれは鼻の奥に絡みつくようだった。
二度と嗅ぎたくなかった。
これにいい思い出が付きまとうはずはあるまい。
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