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文を眺めていると、近くで人の声がした。
話し声が二つほど。
又兵衛は慌てて瓦礫の上に飛び乗ると、人が追って来れないような道を選んで走った。
物陰に隠れて息を潜めていると、涙ぐんだような、しかし悲しいのではない声が聞こえてきた。
むしろその逆だとすぐに分かった。
何があったのかと思わず物陰から身を乗り出した。
そこには先ほどまで又兵衛が眺めていた、もう読むことなど出来ないだろうと思われた文が入った箱を胸に抱いた女の姿があった。
疲れきっているように見えるその顔には、零れるほどの笑みを湛えていた。
突然生気がみなぎるのを目の当たりにして、人間というのは案外に単純なのかもしれないと思った。
ただの紙切れ一枚であんなに笑えるのだから、そこらの生き物よりよほどしぶとい。
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