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「ちなみに、彼はなんと?」
「私を巻き込まないように黙ってたって言ってたけど……」
首をかしげながら、早紀は答えた。
清水は、「そうですか……」と呟き、顎に手をあてがう。
「……ひょっとして、違うの?」
その清水の表情をみて、早紀はおそるおそる尋ねる。
「……」
清水は答えない。
また少しの沈黙を挟み、清水が口を開いた。
「違いませんよ。早紀さんを巻き込まないようにというのは、ぼくの提案ですから」
早紀は、ほっとしたような表情になる。
清水は、「でも」と続ける。
「それは早紀さんのためではありません」
「え?」
文字どおり目を丸くする早紀に構わず、清水は続ける。
「ぼくはこの前、晃くんにこういいました。『ぼくには、将来を有望視される若者の未来を奪う趣味はない』と」
真面目な表情で、清水はさらに続ける。
「その言葉に嘘はありません。でもそれは、早紀さんをいわゆる仲間外れにしたことの、直接的な理由ではありません」
「じゃあ、本当の理由っていうのは?」
真剣な顔で問う早紀。
「……」
それに対し清水は、なにも言わない。
言うことを躊躇っているというよりは、どう話せばいいか迷っているといった感じだ。
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