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「やっぱ人だよ……」 とたまらず声がもれた。 ちょうど満ち潮の時間帯で、打ち寄せてくる波がヒトガタの足を濡らしはじめていた。 このとき、ヒトガタまでの距離は二十メートルほど。 その距離が十メートルほどになったとき、わたしはヒトガタを改めて人間だと確信した。 何度も言うが、死んでいると思っていた。 瞬間、口内に溢れ出てきた生唾を飲み込んだ。 断っておくが、性的に興奮したから生唾を飲み込んだわけでは決してない。 そこにひろがっていた光景に圧倒されたからだ。 いまになって思い返しても、あれは心を奪われる、幻想的な眺めだった。
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