2人が本棚に入れています
本棚に追加
然の顔が苦痛に歪む。
しかし、妖かしも驚いたようで、噛む力が少し弱まっている。
それはそうだ。これは然の世界。
防ぐことも捕らえることも、どうにでも出来るはずである。
「どんな者を愛し、捨てられたかは知らんが、人間、誰しもそうではないぞ」
どんどん噛む力が弱まっていく。
「貴方にとって、それ以上に愛しいものはなかったのでしょう?」
妖かしの目からは涙が流れている。
見た目も段々元の姿に近づいてるようだ。
「どうだ?まだ納得いかんなら、このまま喰い殺してもらって構わんが」
然が尋ねる。
ふっと溜め息のような笑いを吐いて、
「誠、人とはわからぬものよのう…」
もう完全に元の姿に戻っている。
色も白く美しい女だ。
「どうだ?この機にまた男でも愛してみるか?」
からかったように言う。
「ぬかせ、お主と我では到底つり合わぬ…」
涙を流し、笑いながら、すうっと天に消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!