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殺戮王子の剣~Sword of caim~
ある国に殺人に耽溺する王子があった。
小国で常に侵略の危機にあった国は、いくたびも侵略者たちに派兵し、王子もまた従軍した。
王子は常に前線に立ち、獅子奮迅の勢いで兵士を斬り殺していた。
王子は殺戮を楽しんでいたのだ。
あるとき国は竜に襲われた。一頭の竜よって国城は壊滅し、王も王妃も姫も城もすべて灰になった。だが王子だけは前線で戦い、皮肉にも難を逃れることができたのだ。
度重なる侵略と王の不在によって国は疲弊したが、王子は王権継承を拒み竜討伐の旅に出る。
そして国は滅び、隣国に制圧された。
あるとき、一頭の傷付いた赤竜と出会った王子は復讐のために赤竜と契約する。
竜の力を受けた王子は鬼神を思わせる力をもって、旅路にあった近隣の侵略国の王族郎党を皆殺しにし、邪魔する兵士たちを全て切り捨てた。
その死者は数千人にも及び、王子の通った道はさながら赤い絨毯のようだったという。
そして諸国もまた内乱によって滅びた。
やがて十数年の歳月を経て、王子は仇である竜を見つけ、片腕と引き換えにその首を斬獲する。
そして、十年以上も連れ添い長い旅路を共にした赤竜が油断している隙にその首を跳ね飛ばしてしまった。
王子にとって『竜』はひたすらに憎悪の対象だったのだ。十年もの間、憎しみが堪えなかったのは傍らの『相棒』をずっと憎み続けていたからだったのだ。
そして、二匹の竜を打ち倒した王子は竜の巣に向かう。全ての竜を滅ぼすため。
その後、王子は歴史から完全に姿を消した。
ただ、膨大な年月の果てに発見された王子の剣を、残っていたはずの右腕の骨が力強く握りしめていたそうだ。
今となってはこの剣だけが真実を知る唯一の証人なのだろう。
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