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三十枚銀貨の短剣~Blood garden~
かつて世の全ての人を救済しようとした男がいた。
わずかな食物で数千人の飢えを満たし、その足で湖を渡り、多くの病を癒してみせた奇跡の男がいた。
彼は弟子たちを連れて各地を渡り歩き、神の愛を説いていった。彼の教えは次第に広がり、大工の息子として生まれた男は世界を変えはじめた。
彼に最も心酔し、彼を最も深く信奉したのは赤毛の弟子だった。
あるとき、男を快く思わぬ為政者が彼を捕らえようと追っ手を差し向けた。
赤毛の弟子はそれを密告した。その報酬は銀貨三十枚だった。だがそれは裏切りではなかったのだ。
弟子には確信があった。いくつもの奇跡を操り、神に愛された師ならば幾人の兵士に囲まれようと、無事に帰ってくるのだという確信が。
だが、奇跡の男は兵士に捕まり磔刑に処された。
男は図らずも師を破滅に追いやったことに絶望し、血が溢れるほどに握りしめていた銀貨の全てを神殿へと投げ捨てた。
そして我が子を見殺しにした神と、自らを激しく呪いながら縊死したという。
その銀貨と、男を貫いた釘を溶かして作った短剣。
その短剣には、おぞましいまでの神罰が宿っているという。
余談だが、その地方では千切れたロープを首に巻いたまま巡礼する赤毛の男が百年に一度見かけられるという。
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