序曲:蝉の叫びはまだ遠く

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何でもないただの日常。学校からの帰り道、いつも僕らは3人で歩く。 既に日は暮れようとしていて、アスファルト地面を橙色と影色の二色にわけていた。 いつもの交差点。いつもの帰り道。いつもの調子で、さよならのあいさつをする。 「じゃあな、郎太、菜穂」 「おう、んじゃな」 「バイバイ歩」 この信号が青に変われば、僕らは別れる。 空をみれば、赤みがかったオレンジ色が、視界いっぱいに広がっていた。 アスファルトの、強い日射しを受け、いっぱいに暖められたかつての気配がだんだんと薄まってゆく。 それでも星の群れが出てくるにはまだ早い。 もう六時だというのにまだ夜にならないなんて。 昼の長さは、夏の気配の近づきを感じさせる。 そう、夏…… もうすぐで夏だ。 「なぁ、夏……どうする?」僕は呟くように2人に聞いた。 「あー、うーん……私たちなんも考えてなかったね」菜穂は考えが出なかったのか唸った。 少しの沈黙があって。 「んじゃさ、北海道とか行こうぜ?」郎太が話を切り出した。 「無茶言わない!」菜穂が突っ込む。 「よし、じゃあロケット打ち上げようぜ」 「もっと無理!……」菜穂は呆れて、郎太の頭をはたいた。 「そんなに叩くなって」後頭部を擦りながら言う郎太の表情はなんだか嬉しそうだ。 打ち上げ…… 「んあ!」 「どうしたぁ? テンガ」 「あんたはその名で歩を呼ぶなっつの」郎太はまたはたかれた。 「花火……花火行こうぜ!!」 その時、信号が青に変わった。 「それだ!」
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