第一楽章:翼のざわめき

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そして母と妹が帰り、午後5時を過ぎた頃、親友の(宮薙郎太(みやなぎ ろうた)と尾崎菜穂(おざき なほ)が見舞いに来てまた騒がしくなった。 扉をガチャリと開く音がして、それから郎太が喋りながら入ってきた。 「……あいつどうなってると思う? なあなあ、テンガ幽体離脱とかしてねえかな」 「不吉なこと言わないっ! それからそういう呼び方も改めなさいよね!」そう言って続けて菜穂も入ってくる。 二人と目があった瞬間、言葉が出なかった。嬉しさと共にどこか気恥ずかしさがあったからだ。 「郎太、菜穂……」 「んおっ! 生きてんじゃんてんが! ちーすっ」 郎太はキラッとブイサインをしてあいさつをかます。 「あゆむ……」 対して菜穂はまるで絶句したように目を見開き、少しうつむいたかと思うと「良かった」と呟いた。 その目には涙が溢れていた。 「お前ら、久しぶりだな」 「あはは、そんな久しぶりじゃないだろ? まぁいつも一緒だからそう感じるのかもな。 あれオナホ泣いてる?」 「い……いま、かふん……飛んできた……だけ……だし……それにその呼び方やめなさいって」 「お前の不吉なあいさつのせいだ! ってか、てんがっていうの止めてくれね?」 「それはこの命に変えてもやめられねえなぁ。ま、お前が元気でおれはなによりだ。ホッとしたぜ」最後は優しくそう言った。 「嘘つけ」 つか、命にも変えられないってどんなだ。 「いや、本心だって。な! オナホもそう思うだろ!?」郎太は菜穂に話をふった。 「……うっ…………」菜穂からの返答はない。ただすすり泣きの声だけが聞こえる。 「……あれ? オナホ泣いてる? おいおい、てんがに会って悪い夢でも思い出したか?」 「菜穂……」 菜穂は涙を袖で脱ぐって顔を上げる。 「あ、ああたしは泣いてなんかないかんね!? ちょっと目にゴミが入っただけ! 歩の心配なんてしてないからっ! べつ何も思ってないし……」 「うぉいうぉい、僕ちゃん知ってんだぜ。お前が一番ショックを受けてたってこと。学校でもずっと独りだったじゃねえか。」 「あれは調子が悪かっただけ! あのとき郎太が話し掛けてきたせいで、女子の中で色々変な噂されちゃったじゃない!」 「オレとできてるって言われて嫌か?」 「嫌よ! だって私は歩が……」
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