怠獣~ナマケモノ~

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「あなたほどは、めんどくさくありませんよ!」  すぐさま距離を置き、懐からカードを取り出す。  スペルカード。弾幕勝負で必須の切り札である。手持ちのカードの発動と同時に、特殊な特有の技を発動させることが出来るこのシステムは、幻想郷で一騎打ちをする際に発明された、特殊な物らしい。  つまり、弾幕勝負、スペルカードルールに則らない戦いは、この世界ではご法度なのだ。それを破った者には、この世界を監視する者から制裁が加えられるらしい。それが誰なのかは、凸子はまだ知らないが。 「良運「スリーカード」!!」  無数のトランプが凸子の周囲を舞い、それらが歩み寄る少女へと襲い掛かる。 「……スペルカードまで……めんどく……」 「……増えろ!」  凸子の声と同時に、襲い掛かるトランプの数が一気に増えた。その数、約三倍。  自らの武器であるトランプの弾幕の量を三倍に増やす。これが凸子のスペルカード技の一つである、スリーカードである。 「……!」  すぐさま手をかざし、襲い掛かる大量のトランプの群れの動きを、少女は抑える。 「……つくづく、めんどくさい……!」  少女の目に苛立ちが見えた。予想外のトランプの数に、一瞬対応が遅れたのか、大量のトランプ群から抜け出した少女の頬には、僅かに切り傷がついていた。 (ただの弾幕じゃ決め手にかけますね……!)  少女がトランプを避け切るのと同時に、凸子は先程とは違い、距離を離して戦う戦法を切り捨て、一気に距離を詰めた。 「!」 「遅い!」  少女の弾幕を遅くさせる能力は確かに脅威だ。しかしそれと同時に、少女の動き自体も、とてつもなく遅かった。凸子はそこを突いたのだ。  距離と詰めた凸子は有無を言わさず、少女の頭部に強烈な飛び蹴りをお見舞いした。 「く……!」  防御が間に合わず、妖怪少女は地面を舐めた。 「人間だと思って甘く見ましたね……生憎、私は賭博師なんですよ。イカサマだのイチャモンつけられて追われるなんて日常茶飯事。それなりに、飛び掛る火の粉を払う術は身に着けてるんです」  どうだと言わんばかりに胸を張る。 「……くくっ」  しかし、地面を背にしたまま青空を見上げる少女は、静かに笑いを漏らした。 「……触ったわね、私に……ほんと、めんどくさい奴……」
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