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「……凹山凸子。めんどくさいけど、覚えておくわ」
納得したのだろうか? 彼方はそれだけ言うと、何をするでもなくただ、空を眺めた。
「私も覚えておきますよ。またお会いしましょう。面倒じゃなくなったら」
手をひらひらと振り、凸子はその場を立ち去った。
「……」
足音が遠のいていく。彼方はそれを確認し、静かに口を開いた。
「……これでいいわけ?」
「80点と言ったところね」
彼方はただ、空を眺めている。自分のすぐそばで聞こえる女性の声は、掴みどころの無い独特な雰囲気を漂わせている。
「……残り20点は?」
「あっさり貴女が負けちゃった分の減点よ」
どこか妖艶で、どこか深みのある声だ。しかし彼方は、その声の主を見ようとはしない。
「……仕方ないでしょ。あんな混じり気のある奴じゃ……食欲もそそらない。やるだけ面倒だわ」
「人選を誤ったかしらねえ」
困ったように、その声は溜息を漏らす。されどその声には余裕が感じられた。
「とりあえずは、引き続き頑張って頂戴。真面目に働く子は好きよ?」
「……人選ミスね。貴女の部下になった奴に同情するわ」
「口を慎みなさい」
どうやら気分を損ねたようだ。笑みの混じる声に、殺気が刺さる。
(ああ、どんだけ面倒なのよ全く……)
彼方は心の中で、己の運の悪さを呪った。
「使いづらいけど、それなりに貴女のことは買ってるのよ? せっかく雇ってあげたんだから、しっかり働きなさい。そしたら、美味しいご飯を食べさせてあげるわ」
(雇った……?)
その言葉に疑問を抱きながら、彼方は起き上がる。そして周囲を見回した時には、その声の主はどこぞへと姿をくらましていた。
「……ほんと、めんどくさいわ……」
悪態を吐きながら、彼方もまた歩き出した。博麗神社の方角へ。
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