怠獣~ナマケモノ~

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「……夢、かな……」  目が覚める。久々に感じられる、布団の温もりと、安堵感。そんな気分の中に紛れ込んでいる、小さな困惑という名の異物。 (……私は)  凹山凸子は目を擦りながら、小さく欠伸をし、数秒間の物思いに耽っていた。  幻想郷に迷い込み、間もなくして、彼女はあちこちを意味も無く歩き回り、賭博勝負に明け暮れていた。  博麗の巫女に負ける、その時まで。  思い返しても、狂気の沙汰だと感じている。  元居た世界……賭博はしていたもののそれ以外は、いたって普通の、年頃の女の子だったはずだ。  何かに導かれるように、何かを求めるように、凹山凸子は現世を捨て、幻想郷にたどり着いた。 (……)  周囲を見回す。六畳間には、本棚のみが置かれ、障子は閉められているが、確かな陽光の気配を感じる。 「おや、すまない、まだ寝ていたのか」  障子が開かれ、飛び込む陽の光に、凸子は僅かに目を細める。  戸を開けたのは、この日の宿の主。白銀の髪をたなびかせる、美しい女性であった。 「いえ、ちょうど起きたところですよ、慧音さん」  その人物は、以前僅かに顔を合わせただけの、寺子屋の主である。上白沢慧音という名らしい。  たまたま助けたあの時の少年は、どうやら彼女の門下生だったらしく、その時の礼をしたいということで、一泊世話になることにしたのだ。 「朝食が出来たところだ。着替えたら、摂るといい」  寝巻き姿で寝癖がついたままの凸子に対し、彼女は表裏の無い微笑みを見せながら、その場を去った。  白の和装の寝巻き……初めての体験であったが、これはこれで悪く無いなと、凸子はこの時感じた。
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