43人が本棚に入れています
本棚に追加
「……夢、かな……」
目が覚める。久々に感じられる、布団の温もりと、安堵感。そんな気分の中に紛れ込んでいる、小さな困惑という名の異物。
(……私は)
凹山凸子は目を擦りながら、小さく欠伸をし、数秒間の物思いに耽っていた。
幻想郷に迷い込み、間もなくして、彼女はあちこちを意味も無く歩き回り、賭博勝負に明け暮れていた。
博麗の巫女に負ける、その時まで。
思い返しても、狂気の沙汰だと感じている。
元居た世界……賭博はしていたもののそれ以外は、いたって普通の、年頃の女の子だったはずだ。
何かに導かれるように、何かを求めるように、凹山凸子は現世を捨て、幻想郷にたどり着いた。
(……)
周囲を見回す。六畳間には、本棚のみが置かれ、障子は閉められているが、確かな陽光の気配を感じる。
「おや、すまない、まだ寝ていたのか」
障子が開かれ、飛び込む陽の光に、凸子は僅かに目を細める。
戸を開けたのは、この日の宿の主。白銀の髪をたなびかせる、美しい女性であった。
「いえ、ちょうど起きたところですよ、慧音さん」
その人物は、以前僅かに顔を合わせただけの、寺子屋の主である。上白沢慧音という名らしい。
たまたま助けたあの時の少年は、どうやら彼女の門下生だったらしく、その時の礼をしたいということで、一泊世話になることにしたのだ。
「朝食が出来たところだ。着替えたら、摂るといい」
寝巻き姿で寝癖がついたままの凸子に対し、彼女は表裏の無い微笑みを見せながら、その場を去った。
白の和装の寝巻き……初めての体験であったが、これはこれで悪く無いなと、凸子はこの時感じた。
最初のコメントを投稿しよう!