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布団を畳む程度の礼儀は、一応弁えているつもりだ。
服を着替え、鏡に映った自分を眺める。
普段は着ない。神社でしか着ない和服姿を眺め、踵を返す。
凹山凸子……この世界では賭博師を名乗っているが、彼女は神社で生まれ育った。
賭博を司る、八百万の神。彼女の神社ではそういう神様が奉られていたらしい。その神の名を、彼女は知らない。
つまるところ、彼女は賭博師というよりは、巫女である。神社で賭博をすること自体は無かったが、彼女は自然と、賭博という存在に、生まれながらにして惹かれていた。
三歳の頃には麻雀の役を全て暗記し、小学校に入学する頃には既に、大半の遊戯のルールを覚えていたらしい。もっとも、これは凸子の両親から聞いた話であり、凸子の記憶には無いのだが。
「関係あるのかなあ……」
誰に言うでもなく呟き、凸子は居間へと足を運ぶことにした。
「早かったな。急がなくてもよかったのに」
寺子屋の生活スペースは、思いのほか広くは無かった。
大広間は教育のための教室として使われており、浴場、台所、寝室といった、普段慧音が使っているであろう場所は、凸子が寝室として借りた書物庫の広さと大差無い。
慧音が座るこの居間も、ちゃぶ台と教範と思われる書物が積まれている以外は、大して何も置かれていない。どうやら余分な物は置かない性格のようだ。
「実家が何かと生真面目でしたんで、朝はそこそこ強いんですよ」
苦笑を返し、凸子もちゃぶ台の前に腰を下ろす。
今日の朝食は魚(秋刀魚に似ているが、どうやら違うようだ)の塩焼きに、早朝から炊いたであろう白米、味噌汁に佃煮、白菜の漬物。質素に見えて、中々楽しめそうである。
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