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「……おんや?」
汗を拭い、ふと前を見ると、少し離れた道端に、自然に囲まれた風景に埋もれた不自然な光景が映った。
「……人、ですねえ」
それは人だった。
凸子よりは明らかに幼い外見の少女が、あろうことか路上で寝そべっている。
グレー一色に統一されたワイシャツとスカート、風になびく金色のショートヘアーからは、一本だけ不自然に伸びた髪。その先端には青いリボンが結ばれている。
そんな少女が、路上で気力無い表情を浮かべながら一人、寝そべりながら、分厚い本を読んでいたのだ。こちらに気付いたのだろう。その少女とふと、目が合った。
「あー……もし?」
「……何?」
とりあえず、無言で去るのも失礼だろうと声をかけた凸子に対し、その少女は覇気の欠片も無い声で聞き返す。
「何をしてるんです?」
「……見ての通りよ……説明するのもめんどくさいわ」
まあ、確かに見ての通りだろう。彼女は読書をしている。しかし、知りたいのは何をしているかではない、何故そこでしているかだ。
「あ、いや、そうじゃなくて……なんでそんなとこで?」
「……」
少女は黙って凸子を見る。なんというか、心底面倒臭そうな表情を浮かべながらも、彼女は口を開いた。
「……歩きながら読むのがめんどくさくなったからよ」
「は?」
「……二度言うのはめんどくさいわ」
よく分からないが、彼女はめんどくさいが口癖らしい。
「それはそれは……でもそんなとこで読むのは危険ですよ?」
「……危険?」
その言葉に、彼女は僅かに興味を示したようだ。
「たまーに、人間を食べる妖怪が出るって話ですし……読書するのは安全なとこでしたほうがいいんじゃないですかねえ?」
「……そう。なら、ここで読んでても問題無いわ」
「ほえ、なんで?」
どうも上手く噛み合わない。凸子は間の抜けた声で聞き返す。
「……説明するのも面倒だけど……」
ぱらりとページをめくり、彼女は答えた。
「……私が人間を食べる妖怪だからよ」
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