リメンバー、ペイン

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そして、 待ちに待った当日。 鼻唄混じりで店周りを掃除する。 早番の時は誰よりも早く出社し、店周りを掃除する。 俺より早く来ているのは店長位。 そこまでするのが新人の頃から叩き込まれた、仕事の基本の一つだった。 やや寝不足なのがいつもと違う所だが・・・。 ・・・。 昨日はあまり眠れなかった。 自分でも笑ってしまう。 遠足を楽しみにし過ぎる 幼稚園生みたいだ。 「おはよう!一瀬君!」 振り返ると川崎係長。 「おはようございます」 咄嗟に真顔に戻し、いつもの挨拶を交わした。 「いよいよ今日だな!6時半にはダッシュで帰れよ!」 「そんなんじゃないですってば・・・」 「嘘付け!さっきからニヤニヤしながら掃除してたじゃんか!」 どこで見てたんだこの人は。 「・・・でさ、相手は誰よ?」 愚問だぞ、係長? 早番に変えてもらったのはとてもありがたいし、 デートだって予測を立てるのもまぁいい。 実際その通りだからな。 だが相手までバラスってのは頂けないってもんよ。 「あ、あはは」 笑ってごまかす。 はぐらかし、ごまかしは 俺の十八番だ。 「何だよー、せっかく早番に変えてやったってのに」 痛いところを付く係長。 だが十八番は十八番だ。 「そういやさっき店長が昨日の書類にいくつか不備があるって言ってましたよ?」 「まじで!?」 慌てて店内に入っていく係長。 「十八番ってのは絶対に自信があるから十八番って言うんだぜ?」 俺はまた、鼻唄混じりで掃除を再開した。
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