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春、珍しく雨が降った昨日とは打って変わり、日の光が体育館に差し込む。
その体育館に人知れずバスケットボール経験者なら誰もが懐かしむドリブル音が響いていた。
時折ネットを揺らす音がすると、バスケットボール経験者なら誰もが大きなアーチを描いてリング吸い込まれる様子が容易に想像出来る。
そんな体育館に真冬にも関わらずTシャツ、ランパン姿で人一倍大きな身体の男が、黄色のペンキで塗装された鉄の扉を押し開けた。
「誰?」
そのドリブル音の主は一呼吸入れ、目を丸くして問う。
「俺にバスケットを教えてくれ!」
男のやたら大きい声がボロボロの体育館に波長が合ったのか男を含め二人しかいない体育館はビリビリと振動した。
女は後頭部を掻きながら
「ここに来ること誰にも言って無いはずなんだけど」と呟いた。
「尾行した!」
男は女と同じように後頭部を掻きながら呟いた。
女は無言でコートの隅に置いていたエナメルのスポーツバッグに歩みより、携帯電話を取り出し、ボタンを何回か操作した後、耳に当てた。
「どこに電話してる?」
「警察」
これ見よがしに見せて来た携帯電話の画面には 〝110〟 と言う文字の下に〝通話中〟と表記されている。
「もしもし、桜台町町民体育館にいるんですが知らない人が」
「え? え?」
男の顔が一気に青ざめて行くのが分かった。
「ジョーク」
女が携帯電話の決定キーを押すと画面に アホが見る と言う文字と共に豚の尻が浮き出てきた。
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