一、春

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男は体育館真横にある自転車置き場に歩みよると、下向きにねじ曲がったハンドル、そのハンドルより座位が高いサドル。それも自転車と思われる物体に触る。そしてやけに細長いサドルに座り長い足を地面に着かした。 「カッコいい自転車、ロードバイク?」 「FELTの2008年モデル、定価15万円」 男はハンドルに掛けてあった玉虫色に怪しく光るヘルメットを被り、リュックの中からスポーツサングラスと滑り止めの手袋を取り出した。 「中学生が買える値段じゃないじゃん。ボンボンかよ?」 「普通の家っすよ。ただ、バイトで少し」 「フィリピンから麻薬密輸でもしたの?」 「俺そんな人相悪いすか?」 「中学生のようなあどけなさは残念ながら残されてはいないね。じゃあ、私、役場に鍵返してくるから」 女は鍵に着いたホックの輪を人差し指で回して見せる。 「それじゃあ」 「それじゃあまた明日、午前八時集合、時間厳守よ」 「随分と偉そうっすね」 「まあ師匠だからね」
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