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山の途中によく幹太と登った桜の木がある
幹太の見送りを断って防具を担いでばばぁの握り飯を懐に薄紅の中を歩くと
峠の桜の下に小夜がいた
小夜はあとから、あとから涙を流すから小夜の白い頬には桜の花びらがはりついていた
俺は通りすぎようとしたけどやっぱり立ち止まって
小夜に背中を向けたまま 拳を握りしめた
『小夜殿!!!!俺はまだ孤児の百姓です!!!ですがもう一度貴女にお目にかかる時はひとかどの侍になっています!! どうか!!待っていて下さい!!貴女を迎えにきます!!………一緒になっても志村の名字はそのままだけどな……小夜…俺はお前を嫁に貰いに帰ってくるから…だから…』次の句が出てこない
胸が苦しい。痛い
『清太様!!小夜はいがいと殿方にモテるのです!!兄上のご学友は皆小夜に会いに志村の家に来ると兄上は笑っておいででした』
『だから……だから……早く帰ってこないとすぐに嫁に行ってしまいます!!』
俺は小夜の目前まで駆け戻って小夜を抱き締めた
『待っていろ。すぐだ。俺はすぐに手柄を立ててお前を迎えにくるぜ』
小夜の耳元で囁いた
『はぃ』
小夜は大きな目に涙を一杯浮かべながらそれでも笑顔でうなずいた
山の桜が狂ったみたいに咲いていた
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