はじまり、はじまり

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『……また……こんの糞餓鬼がァァァっ!!!!!』 狭くて汚ねぇ今にも倒れそうな家にばばあの怒声が響き渡る …いや、ありゃ小屋だな 『うっせんだよ、妖怪ばばあ!!早くくたばりやがれ!!』 俺が乳飲み子の頃に母親は死んだ 父親についてはどこの誰だかもわからねぇ だから俺はソイツらに興味すらねぇ 妖怪ばばあとは血のつながりはないらしい 山道でくたばってた女にへばりついてるガキを拾って育てるような暇な年寄りだ ばばあの汚ねぇ乳吸って育ったんじゃなくてよかったと今でも本気で思ってる 今日も俺は畑仕事と家事を早めに終わらせて(わかるよね?怒声のわけ) 山道を下って少しは開けた村の中心部に来た ここは貧乏足軽達のくらす貧乏屋敷が並ぶ場所だ 貧乏、貧乏とシツコイが本当の事だからしかたがない とはいえどの家も妖怪ばばあの小屋よりは少しはましな佇まいをしてやがる 『お~ぃ幹太ぁ~』 いならぶ貧乏屋敷の中でも一際目を引く傾きっぷりの家の前で俺はいつものようにツレの名前を呼ぶ すると期待した通り幹太にソックリな色白の仔犬みたいな目をした女の子が戸口から顔をのぞかせる 『兄上はまだお稽古からもどりませぬ。なんのおかまいもできませぬがどうぞ上がってお待ちください。』年に似合わない武家言葉で小夜が俺を中に通してくれる この時間に来ても幹太がいないのは百も承知 小夜の顔を見たくて早く来るんだ 家の中は叱られるから勝手口の奥の土間で白湯をもらう 俺は百姓の子だから客ではないのだそうだ ここの家の糞ばばあがいっていた 小夜の父上、もといここの家の主は志村幹一さんといって優しくて剣も学問もできる俺の憧れの侍だった 幹太だけではなく俺にも読み書きや剣術を教えてくれた 志村さんは藩の子供達の先生だった 学問も剣術も一番なのに ににんぶちって給料しかもらえないと志村の糞ばばあが言っていた 俺にはににんぶちってやつがよくわからねぇ 幹太の母上は病弱でいつも暗い部屋で横になっていた 俺が摘んだ花やうちの妖怪が作った干し柿を見舞いに持って行くと申し訳なさそうに子供の俺に頭をさげた 小夜が美人なわけがわかる 幹太のお袋さんは見たことねぇような器量良しだ
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