Sちゃんへ。

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   ―KREVAの『音色』―  歌詞が今の俺の気持ちにぴったりやねん。 って。 不器用で奥手なSちゃんが唯一あたしに贈ってくれた曲。 もう何年も前だけどね。 だから ―KREVAの『音色』―  はもう誰も歌ってほしくない。 'チンザノロッソ'とKREVAの『音色』だけは、この世からなくなればいいのに。 そうすれば、Sちゃんと共に永遠になるのに。 ねえ、Sちゃん。 三十歳は、早すぎだよね。 まだまだしたい事、やりたい事。 やりかけてた事いっぱいあったもんね。 私たちがいくらSちゃんを想って泣いて、責めて、後悔しても。 一番無念なのはSちゃん自身だよね。 どうして亡くなったの? どうして急に逝ってしまったの? 最期は綺麗な顔してたよって聞かされても、何の慰めにもならないよ。 どうして綺麗な顔で逝けたの? 心残り、沢山あったでしょう? ようやくこれから、ってところだったじゃない。 ねえ、どうして? どうしてよ。 色んな事でSちゃんを思い出す。 好きだった香り。 好きだった本。 好きだったお酒。 吸ってた煙草。 得意だった絵。 熱中してたボード。 乗ってた小さい自転車。 贈ってくれた曲。 一緒に行った場所。 勢いで行った日帰り新潟旅行。 振られて惨敗して帰って来たよね。 酔った時だけ積極的になるSちゃん。 皆に隠れて仕事中にキスをせがむSちゃん。 Sちゃんの声。 呼んでくれた名前。 Sちゃんの笑顔。 Sちゃんの口癖。 たまに感情が抑えきれなくて、壁を殴って手がすごく腫れた事。 身体中にあった傷。 そして、ずっとずっと何年もの間、私を好きでいてくれた事。 応えられなくてごめんね。 今想っても、もうどうにもならない。 何かが変わるわけでもなければ。 Sちゃんが還ってきてくれる訳でもない。 わかってるよ。 だから。 せめて私は。 Sちゃんを忘れないために。 でも、毎日笑ってSちゃんがやりたかった事をやって。 嫉妬させてみせるから。 私の中でSちゃんとの思い出は、ずっと生き続けるから。 だから大丈夫。 Sちゃんの人柄なら、どこでもすぐに誰とでも打ち解けられるから。 安心して逝っていいよ。 Sちゃん、今までたくさんのものを与えてくれて、残してくれて、本当にありがとう。 そして、さようなら。  
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