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男は、玄関の前で非常に困っていた。と、いうのも、空模様がどうしようもなく微妙なものだったからだ。
どんよりとした灰色の空。雨が今にも降りそう、というほどでもないし、このまま曇りが続くようなものでもなさそうな、そんな微妙なものだった。
最後の頼みだったテレビの天気予報も、降水確率50%という、なんともいえないものであったのだ。
男の手の中には傘が一本握られていた。
「はてさて…。持って行くか否か…」
男は迷ったあげく、結局傘は持って行かないことにした。それほどの遠出でもないし、例え降ってきたとしても本降りになる前に走って帰ってこれるだろう、と判断したからだ。
そのため、いつ降るか予測もつかない雨の心配をしてしまい、自然と足は速くなる。彼の足は遂に地を蹴るようにして走り出していた。
男は、普段から運動をしていないせいか、すぐに息があがってしまう。彼は肩で息をしながら、目的地である銀行を目指していた。
途中、黒服の怪しい二、三人の男とすれ違ったが、彼は急いでいたため気にも止めることはなかった。
遂に目的地に着いた頃は、男は完全にバテてしまっていた。彼は胸ポケットから煙草を取り出すと、それに火をつけ煙草をふかし始めた。そして、大きなため息を吐くようにして、彼は紫煙を吐き出した。
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