落ちていました。

6/7
前へ
/264ページ
次へ
自分は何か、妖精たちを怒らせるようなことをしたのだろうか。 そう思っての問いかけだったが、それには『うんにゃ』という返事が返ってきた。 『あんたが転べば面白いだろうと思った。それだけだ』 「ははあ。ミルク、いらないんですかね?」 『……』 声は押し黙った。 何か慌てたような気配があり、ごそごそ、ひそひそ、相談している。一人ではなく複数だったらしい。 『ミルク、くれるのか?』 やがて、甲高い声がした。 「今夜、置いておきますよ。裏口に」 『どれぐらい、くれるのか?』 「カップに一杯」 再びごそごそ、と話し合う気配。 しわがれた声と甲高い声が、何やら話し合ったあと、 『何をしてほしいんだ?』 『そうだ。何をしてほしいんだ?』 と、尋ねてきた。 「うちに来るお客さまが、気持ちよく店に入れるよう、出てゆく時にも安心して行けるよう、いたずらはしないでくれるかな」 そう言うと、またもや、ごそごそ、と相談する気配。 やがて、相談はまとまったようだった。 『わかった』 『わかった』 『わしら、いたずらしない』 『玄関守る。客も守る。店主も守る』 『だから、ミルクよこせ』 『ミルク。今夜、用意しとけ』 そう言いおくと、ばさばさ、と何かが羽ばたく音がした。一斉に、そこにいたらしい何かがいなくなる。 何の妖精かわからないが、立ち去ったらしい。 「私の事までは考えていなかったのだけど……ラッキー?」 ミルクは忘れず裏口に置かないとな、と思いつつ、 店主は倒れたきり、ぴくりともしない客に、改めて目を向けた。
/264ページ

最初のコメントを投稿しよう!

264人が本棚に入れています
本棚に追加