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自分は何か、妖精たちを怒らせるようなことをしたのだろうか。
そう思っての問いかけだったが、それには『うんにゃ』という返事が返ってきた。
『あんたが転べば面白いだろうと思った。それだけだ』
「ははあ。ミルク、いらないんですかね?」
『……』
声は押し黙った。
何か慌てたような気配があり、ごそごそ、ひそひそ、相談している。一人ではなく複数だったらしい。
『ミルク、くれるのか?』
やがて、甲高い声がした。
「今夜、置いておきますよ。裏口に」
『どれぐらい、くれるのか?』
「カップに一杯」
再びごそごそ、と話し合う気配。
しわがれた声と甲高い声が、何やら話し合ったあと、
『何をしてほしいんだ?』
『そうだ。何をしてほしいんだ?』
と、尋ねてきた。
「うちに来るお客さまが、気持ちよく店に入れるよう、出てゆく時にも安心して行けるよう、いたずらはしないでくれるかな」
そう言うと、またもや、ごそごそ、と相談する気配。
やがて、相談はまとまったようだった。
『わかった』
『わかった』
『わしら、いたずらしない』
『玄関守る。客も守る。店主も守る』
『だから、ミルクよこせ』
『ミルク。今夜、用意しとけ』
そう言いおくと、ばさばさ、と何かが羽ばたく音がした。一斉に、そこにいたらしい何かがいなくなる。
何の妖精かわからないが、立ち去ったらしい。
「私の事までは考えていなかったのだけど……ラッキー?」
ミルクは忘れず裏口に置かないとな、と思いつつ、
店主は倒れたきり、ぴくりともしない客に、改めて目を向けた。
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