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女性は、ティラミスと名乗った。
「会社に行こうとしてたんですよ。なんかでも、ぼーっとしてて。疲れがたまっていたのかなあ?
いつも曲がる角を間違えて、反対に曲がっちゃったんですよね。そしたら、迷っちゃって。
焦るし、お腹すくし。朝ごはん抜きだったから。
戻ろうとしたけど、来た道もわかんなくなって。
コンビニ探してもないし、どこかお店に入って道を尋ねようって思っても、この辺りのお店、敷居が高そうで、入りにくい雰囲気でっ。
アンティークとか、高そうなものばっかりじゃないですかっ。
困ってたところで、ここ、見つけて。転んじゃったけどっ。でもよかった、人がいてくれて~!」
以上は、とりあえず店に入ってもらい、
おしぼりを手渡して泥を落としてもらっている間に、大急ぎで作ったべーグルサンドと、いちごを皿に盛り合わせ、出したところ、
猛然と食べ始めたティラミスが、語ったことだった。
すごい勢いでぱくついている。よほど空腹だったのだろう。
「はぐはぐ、コレ変わった味するけど、なにはさんでるの」
「チーズとバジルの葉、レタスだけですが」
「んぐんぐ、でもなんか味が違う」
「ハーブを漬け込んだオリーブオイルを塗りましたから、それでじゃないですか」
「むぐんぐ、そう? ん~もう、なんでも良いや、おいしい!」
「ありがとうございます……あの、ゆっくり噛んで下さい」
どうやら何も知らず、魔法小路に迷い込んだ客らしい、と店主は見当をつけた。
妙な店に入らなくて良かった。中にはかなり、たちの良くない店もある。
何気なく手にした品物から知らずに呪詛をもらい、ひどい目にあう『迷い客』の話は、ここでは珍しいものではない。
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