プロローグ

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魔法小路(まほうこうじ)。 ここには、怪しげなものが集う。 まじないに使う、不可思議な形の道具、 どんな効能があるのか、見ただけではわからない、薬草、軟膏(なんこう)、 飾りとしてよりも、呪文を固定、発現させる道具扱いの、金属、宝石、 見る者を選ぶ書籍や巻物。 様々な土地から運ばれ、集められ、吟味された雑多な品物が、ひしめく通り。 そんな通りを歩く者は、 フードを深くかぶり、 口数は少なく、 己の身上を、必要以上に他者に悟らせようとはしない。 また、ここは、『小路』と呼ばれてはいるものの、 常に変動し続け、 姿を変え、大きさを変え、位置を変える場所でもある。 ある時は、整然とした街中を、一つ角を曲がった途端に、 ある時は、薄暗い路地裏に迷い込んだ瞬間に、 ある時は、霧のたちこめる田舎道を、歩いていると不意に、 それぞれに相応しい形、相応しい店の並びで現れる。 邂逅(かいこう)は、一度限りかもしれない。 見つけて入った店に、二度と出会えないこともあるからだ。 もし迷い込んだなら、とてつもない幸運か、不運をその手にするだろう……。 それが、この場所。 魔法小路。 ☆★☆ そんな通りの片隅に、魔法とは一切関係のない茶屋があった。 出てくるものは、ごく普通のお茶と、 ごく普通の茶菓子。 訪れる者がどのようなものであれ、 どのような魔法生物であれ、 あるいは、どのような呪文のかかった無機物であれ。 店主はおだやかに微笑んで迎え入れる。 「いらっしゃいませ。 当店へようこそ」 これはそうした、魔法だらけ、不思議だらけの場所のただ中で、 あくまで普通、 あくまで当たり前に営業する、 『ただの茶屋』の店主と、 訪れる客たちの、 日常の物語り。
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