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どうしたものかと思いつつ、一歩、足を踏み出しかけ、
店主は動きを止めた。
「なるほど」
つぶやくと、ポケットから小さな瓶を取り出した。
中には、色つきの砂が入っている。
知り合いの魔女からもらった、妖精の呪文避けの砂だ。
蓋を開け、ぱっとその場にまきちらすと、
ばちんっ。
何かが壊れる音がして、残念そうな舌打ちが聞こえた。
「どこの子かな。だれかに頼まれた?」
そう尋ねると、こちらをうかがう気配があった。
「客への手出しは、やめてもらえないかな」
『そいつが勝手にひっかかったんだ』
しわがれた声がした。
『見ものだったけどな。そいつ、派手に滑って空を飛んだぞ』
飛んだのか、と店主は思った。
『そのあと、盛大に落っこちてたけどな』
重力の法則は、今朝も普通に働いているようだ、と店主は思った。
『あんたを転ばすつもりだったのに』
「ああ……それで、派手に扉をがたつかせていたんですか」
何だろうと扉を開けて、足を踏み出したら、つるり、となるはずだったらしい。
そうなる前に、この客がひっかかってしまったのだが。
「私、何かしましたかね?」
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