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あの時は魔法陣が現れた直後に詩音の姿は一瞬で消えた。
本当に一瞬……驚く暇さえ無かった。
だがこの魔法陣が現れて数秒、未だに俺の体はここに存在している。
……あの魔法陣とは別の物なんだろうか?
脳裏にはそんな疑問が浮かび上がるが、同時に一つわかっている事がある。
それはこの魔法陣から逃れるつもりは毛頭無いという事だ。
何故か?
まず声が出ないし体を動かす事が出来ない。
だからどちらかと言えば逃げるつもりが無いと言うよりも、逃げられないと言った方が正しいのかもしれないな。
だがそんな事が無かったとしても俺が逃げようとは思わない理由。
それは―――
『この魔法陣の行く先に詩音がいるのではないか?』
―――そう考えたからだ。
根拠なんて物は何も無い。
この魔法陣がまったく別の場所に繋がっている可能性もある。
更に詩音のように俺の存在もこの世界から消えてしまうかもしれない。
正直不安な事は山ほどある。
だがそれ以上に―――『詩音に会いたい』、その気持ちの方が何倍も強かった。
「……俺を連れていってくれるのか?」
知らず知らずの内に出なかったはずの声が出た。
同時に俺の声に反応したかのように魔法陣の輝きがより一層強くなる。
その直後―――ついに目に見えて変化が起きた。
魔法陣に触れていた両足が光の粒子に変わり魔法陣に吸い込まれ始めたのだ。
その変化は足から上半身に向かって瞬く間に広がっていく。
「……父さん、母さん、ごめんな」
そんななか不意に口にしていたのは両親に対しての謝罪の言葉。
この歳まで無事に育ててくれたのに急に消えるんだ。
親不孝にもほどがある。
それに無事ここに帰って来られるかもわからない。
……だからこそ、かな。
再びこの家に帰ってくる事が出来るように、せめてこの言葉だけは残して行こう。
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