上田屋

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上田屋の中が騒がしくなる。 叫び声、悲鳴、刄の交差する高い音。 中でどのようになっているか…それは分からない、私たちはただ闇に潜み、手に持つその銃の引金を引く時を待つ。 騒々しい物音と共に通用口の戸が開く。 肩に傷を負った長州藩士が一人死に物狂いで飛び出してきた。 私が銃の引き金を引こうとしたその時、 「隊士が二人いるんだ、自信をつけさせてやろうぜ。」 そう言ってミックが私の手を止めた。 その言葉に、しばらく二人の隊士にまかせてみることにした。 手負いの長州藩士の前に若い隊士が構える。 追い詰められた長州藩士は鬼の形相で隊士を睨む。 死と隣り合わせの人間のその迫力に隊士が少したじろいだその瞬間、長州藩士は隊士に切り掛かる。 「うっ‼」 短い叫びと共に隊士の一人が身をすくめる。 それを隣で見ていた隊士も後ろへと後退る。 それを見逃すわけもなく長州藩士が切り掛かったその時だった。 「ダーン‼」 私の後ろから銃声が鳴り響いた。 飛び掛かる長州藩士はそのまま無機質に倒れこむ。 「退くぞ、蓮。」 ミックが私の肩を引いた。 隊士にもその存在を知られてはいけない、私たち新選組十一番隊「闇夜」の仕事はこれで終わる。 そこに何も残す事無く。 十一番隊。 3ヵ月前、山崎さんとともに「新選組副長土方歳三」その人に呼ばれたことから始まった。
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