パティシエになる、その時。

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「君には驚いたよ…有紀!」 有紀君は毎年ギリギリ追試進級。卒業試験も最下位で、希望は無かった筈だった。そんな彼が、卒業するのだ。盛大な拍手が贈られ、いつも通りへらへらと笑いながら証書を受け取る。 だが同時に、残りの者に大きな緊張が襲いかかる。まさか3年連続追試進級、成績連続最下位の彼が卒業を言い渡されたのだ。彼の担任は、号泣していた。 「イチゴタルト組…」 痛い程に心臓が跳ねた。このクラス100人の中から、1人卒業者が出る。一瞬、世界がスローモーションに切り替わる。 「霧依!」 霧依…きりえちゃん。ころんのタルトをバラみたいだったと誉めてくれた友人だ。霧依のイチゴタルトは、シロップの上から飴がけされたイチゴタルトだ。敢えて酸味の強い苺を選び、カスタードクリームとシロップ、そして飴で丸く纏めた秀作だ。 「おめでとう、霧依ちゃん!」 「ありがとうころん、あたし、あたし卒業できるんだね、パティシエになれるんだね…」 霧依は目に涙を溜めながら笑った。ころんも心の底から祝福した。これで30人目。残りの17人には、自分は入らないだろうと諦めかけていた。
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