パティシエになる、その時。

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「ころん、それじゃダメよ。焦らないで。大丈夫よ。大丈夫。」 ころんは焦りを隠せずにいた。最終試験以来、それ以上に腕が伸びずにいた。卒業試験まではあと4日。 このままでは、卒業できない。このままでは―… 母は何度もころんをなだめようとするが、ころんはそれを聞こうとしない。 「このままじゃダメなの、ダメなの!」 感情の高ぶりのままに思いきり焼き上げの魔法を放ったころん。オーブンから黒い煙と共に、ボスン、という音が聞こえた。タルトは灰になっていた。 「このままじゃ…」 ころんは悔しさに涙を滲ませた。ダメならまた一年、学び直せばいい。そうして世に出たパティシエは少なくない。つまり、それほどまでに『人々にスイーツを販売できる腕を持つパティシエ』になる事は難しいのだ。 だがころんは、そんな事を考えた事はなかった。それは母が凄腕パティシエであり、自分がその娘である、というプライドがあったからだ。しかしいざ入学してみれば成績は中の下。なんとかこうにか進級できた、という状態。プライドはもはや微塵も残っていない。自分には才能が無いのではないかとさえ考えていた。
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