パティシエになる、その時。

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そしてついに卒業試験の日がやって来た。 大丈夫、今まで通りやればいいの。時間制限も無いから、手順と材料の具合がしっかりしていれば、急ぐ事もない。 すっと深呼吸して、ころんは調理に取りかかった。 丁寧に作り上げた生地をタルト型に敷いて、焼き上げる。その間にカスタードクリームとシロップを作る。何度も味見して、今日仕入れた苺との甘味を合わせていく。今回は自分なりのアレンジとして、クリームチーズを使った甘めのサワークリームと二層に仕上げる。焼き上がった生地を冷却の魔法でゆっくりと熱を取り、二種類のクリームを絞り入れていく。その上に半分にスライスした苺を花びらの様に少しずつずらしながら敷き詰め、真ん中の苺は花が開いたような飾り切りを施した。そして最後に、ブランデーを混ぜたシロップを塗り、完成品として提出した。 結果が出るまでは教室待機。ころんはクラスメイトと卒業試験について話していた。 「ころん、何だかすごく上達したよね!今回も私、先に終わったから見てたけどあんな飾り切り思い付かなかった!全体がバラみたいで切るのが勿体無いよ!」 「俺も見てたよ、ミントの葉を乗せないで敢えて苺の赤と白で勝負したんだな。それにあのサワークリームには驚いたよ。誰もクリーム二層にする奴なんかいなかったぜ!」 「えへへ、ありがとう皆。でも皆のも並んでいるのを見たけれど、どれも凄かったよ。タルト生地を敢えて大きくして苺ごと囲んじゃうとか、シロップの上から飴がけするとか、ミントを真ん中じゃなくて端に寄せて模様を書くなんて思い付かなかった!皆、やっぱり気合い入るよね、卒業試験だもん。」 「校長が認めた奴しか卒業できねーからな。俺らはまだ楽な方だぜ。クッキー組の奴等は外見で勝負は難しいからな。」 「でも私、ブルーベリーだったら自信無かったかも…」 「俺もシュークリームだったら進級すら出来なかったかも!」 そんな会話をしているうちに、ついに卒業生発表の集合放送がかかった。 講堂へ向かう生徒達の足は、いささか早足になっていた。
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