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―ある満月の夜。
今夜はなにか厭な予感がする夜だった。
この暗闇の山の中を様々な木を伝って猿のように登ってゆく一人の青年がいた。
黒髪短髪、容姿端麗赤い眼をした五代目猿飛佐助である。朱色の忍者装束に身を包み腰に小刀を差している。
『ったく…本当にこの山に忍びの巻があんのかよ』
ふてくされながらも
山育ちの佐助は異常な速さすたすたと登っていく。
ちょうど山の半分ほど登った所でふと木の上で足を止め、持っていた小さな地図を広げる。
『三太夫(さんだゆう)からもらった地図だとこのへんだな』
佐助の読み通り、目の前にはいかにも古い神社があった。
ちなみに三太夫とは五代目“猿飛佐助”の師匠である。
『まったくよ…三太夫も何考えてんだかわかんねえな。
いきなり地図を渡してきたかと思えば理由なんて一言も説明せずに「いいからお前はこの地図の神社に行って『忍の巻』を取ってこい」だってよ。
理由ぐらい説明しやがれっての』
明かり一つない不穏な空気の中、師匠への不満を漏らしながら平然と神社の中へと入っていく。
『ん?なんだここ…まさか使われてないのか?』
そこは完全に廃棄だった。
昔になにかあったのか、
もうこの神社は神主はおろか巫女さえ寄り付いてはいないようだった。
その証拠に辺りの屋敷のような所は屋根が欠け、窓が割れ、いたるところに蜘蛛の巣が張り巡らされている。
『ひっでえ有様だな…今にも妖怪でも出てきそうな雰囲気だぜ』
と、冗談っぽく言ってみるが流石にこの不気味さに耐えきれず、少しうろたえながらもさらに神社裏の森へ歩いていく。
するとそこには鎖のようなものでがんじからめにされている大岩があった。
『なんだこれ…?』
その上には不自然に刺さっている怪しい巻物が一本あったのだった。
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