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「おやおや、ずぶ濡れだね。……本当に酷い事をするもんだな」
そう言って先生は私に近付いて来ると、私に向かって手を差し伸べる。
しかしそれを無視してフイッと顔を背けると、自分で立ち上がり濡れた制服を絞った。
その私の態度に先生は何故かクスリと微かに吐息を漏らすと、窺う様に私を見つめる。
「とりあえず保健室においで。そこに着替え用の制服があるから……」
「大丈夫です。ご心配かけてすみません。……放っておいて下さい」
先生の言葉を遮りそう素っ気なく答えると、そのままトイレから出て行こうとする。
……イジメの問題が大きくなると困る。
私を無理してこの学園に入れてくれた両親には、絶対に心配をさせたくない。
「待ちなさい。そんな恰好の生徒を放っておけるわけないだろ」
そう言って先生は私の腕を掴んで、私を引き止める。
「放して!!」
声を荒げ先生の手を振り払ったその瞬間……思わず眉を引き攣らせた。
「……は?」
また私の口から勝手に声が漏れ出し、ポカンと口を開いたまま立ち尽くす。
先生が……恍惚の表情で涎を垂らしている。
先生は振り払われた手を擦りながら、異常な目で私を見つめてくるのだ。
「……キ、キモイ」
心の底からその言葉が漏れ出し、嫌悪の視線を先生に向ける。
すると先生は瞳をキラキラと輝かせ、そしてゴクリと喉を鳴らした。
「君が入学した時から思っていたんだけど……君って凄く素質があると思うよ」
「……そ、素質?」
ハァハァと微かに呼吸の荒い先生の言葉に思わずそう問い返すと、先生はコクリと小さく頷いて返す。
「そう……《S》の」
彼がそう言ってニッコリと爽やかな笑みを浮かべると同時に、何故だかどうしようもない不穏な空気を感じ、ヘラっと気の抜けた笑みを浮かべてしまった。
この変態養護教諭との接触が、私の暗く退廃的な日常をぶち壊し、明るく晴れやかな……いや、ある意味仄暗く悪い方向へと進んで行く事は、言うまでも無い事だと思う。
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