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「同業者がなんの用です? あまり、提供できるような情報はないと思いますが?」
「単刀直入にお訊きします。烏森さん、『CROWS』という窃盗団をご存知ですか?」
一瞬、お茶を運ぶ手が止まる。動揺を悟られないように答えた。
「さあ? 聞いたことありませんが?」
「そうですか、業界では有名な二人組だったんですけどね。依頼されれば、どんなものでも盗みだす。それこそ、機密データーから人間まで、彼らが盗めなかったものはなかったそうですよ」
「……」
おれは黙ってお茶をすすった。
「それが、5年前、ある事件をきっかけに消えてしまいましてね」
「ほう、そうなんですか」
あまり興味がないような相づちを打つ。どうしようか? このまま何も知らないと言って追い返すか?
おれが悩んでいることに構わず、村上が続ける。
「ある研究者の自宅から、新薬に関するデーターが盗まれましてね。それを盗んだのが彼ららしいのですが、その後消息を絶ってしまったのですよ。研究者とその家族全てを殺してね」
「!!」
おれは動揺を悟られないように答えた。
「それは、ずいぶんと物騒なお話ですね。そんな、一家を惨殺してまでも手に入れたいほどの薬なんですか?」
「ええ、その薬を服用すると、人間からある感情が全く消えてしまうんです」
「ある感情?」
「『恐怖』です」
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