烏森探偵事務所

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午後6時。 太陽が一日の役割を終え、西の彼方へと消えていく。あかね色に染まる空の向こうには星たちが輝く準備をしている夕暮れ時。 普通の会社なら、終業時刻といったところか。 自宅兼事務所、さらに事務所所長のおれには、終業時刻なんて関係ない。 まあ、職業柄、終業時刻など決めていたら商売にはならないが。 「烏森探偵事務所所長 烏森健人-からすもりたんていじむしょしょちょう からすもりけんと-」 この名前にも慣れてきたな。自分の名刺を眺めながら思った。もう5年になるのか……。 「おはよー」 脳天気な声が部屋の入口から聞こえてくる。 「なにが『おはよう。』だ。時間を考えろ」 「あら?さっき起きたんだから、『おはよう』で間違いないと思うけど?」 この女、おれの助手をしている綾崎理子(あやさきりこ)、見かけこそ二十歳そこそこの小娘だが、実年齢は500歳を超えるヴァンパイア、つまり化物だ。
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