5年前

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「だ、誰?」 女の子は泣きながら訊いてきた。 困った。なんて答えようか。 「あー……君を助けに来たんだよ」 こんな感じでいいだろうか? 理子を見ると、同じように困った顔をしている。 「悪い人たちは帰った?」 「うん、もう帰ったよ。大丈夫だから、出ておいで」 ベッドの下に手を差し伸べた。しかし、女の子はその手をとろうとしない。 「パパとママは?」 そうか……この子は、まだ自分の両親が殺されたことを知らないんだ。 「大丈夫。外で君を待ってるよ。おれたちは、パパとママに頼まれて君を助けに来たんだ」 「ほんとに? 正義の味方なの?」 「ああ、そうだよ」 即答しておいて、気分が悪くなった。泥棒が、何を言っている。 「君の名前は?」 「木下沙耶」 「そうか。沙耶ちゃん、さあ、おいで」 沙耶はゆっくりとおれの手を握った。おれは、その手を優しくひっぱり、沙耶を抱き上げた。 幸い、暗闇なので両親の死体には気がついていない。急いで部屋の外に出た。
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