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「『殺しはしない』、それがおれのポリシーだった。口じゃ、殺して奪うような奴は二流だとか言っていたが、そうじゃない。殺人をしないことで、自分のやっていることはそんなに悪いことじゃないって自分自身を騙していたのさ」
堰を切ったように言葉が溢れ出す。
「おれは、依頼品がどんなもので、何に使われるか、あえて聞かないようにしてきた。それは、余計な感情が入って、仕事に支障が出るのがいやだったからだ」
「ええ。それは前に聞いたわ」
「つまり、おれはそれを盗むことによって、誰かが死ぬようなことになるのを知るのが怖かったんだ。銀行強盗が運転する車に罪がないように、依頼されてものを運んでくる人間には罪がないと思い込みたかった」
「それは考えすぎよ」
「いや、そうじゃない。おれが盗んだことによって、自殺した人間がいたかもしれない。誰かに殺されることになった人間がいたかもしれない。そして、その先にはこの子のように泣いている子供がいたかもしれない。さっき、この子を抱いて逃げるとき、その事を突きつけられたような気がした」
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