烏森探偵事務所

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「突然おじゃまして申し訳ありません。私、こういうものです」 そう言って男は名刺を差し出した。 物腰は柔らかいが、研ぎ澄まされたナイフのような鋭さのある男だった。 「村上探偵事務所……」 「はい。所長の村上玄と申します」 顔はにこやかに笑っているが、こいつはこの顔のまま平気で人を殺せる、そんな目をしている。 そこへ理子がお茶を持ってきた。 「ありがとう、お嬢さん。ずいぶんかわいらしい助手さんですね。ただ、見た目よりずいぶんとお年を召していそうですが。おっと、女性に年齢の話は失礼でしたね」 理子の眼つきが変わる。こいつ、理子の正体を知っているのか? 「ところで、どうしてここが烏森探偵事務所と知っていたのですか? 場所は公表していないはずですが?」 「それは、企業秘密ですよ。あなたも同業者なら、そういった独自の情報網くらいお持ちでしょう?」 出されたお茶を飲みながら、平然と答える。 こいつ、怪しまれるのを承知でここに来てやがる。いや、怪しませることこそ目的なのかもしれない。
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