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「ね~んね~ん…ころ~り~よ~…」
カヨはつぶやくように歌いながら赤ん坊をあやした。赤ん坊は泣きやまない。
「ぼう~や~は~よい~こ~だ~…」
よい子?
「こんな苦労知らずの子供がよい子になどなるものか」
カヨは歌うのをやめてしまった。
「耳障りな泣き声!」
カヨの腕は赤ん坊の首に向かって伸びていた。赤ん坊の首にかけられた両手に徐々に力が入る。カヨのひび割れた指先が赤ん坊の柔らかい皮膚に食い込む。
「カヨ」
そのときカヨを呼ぶ声がした。懐かしい声、母さんの声だ。
カヨはハッとして辺りを見渡した。人影はない。赤ん坊は頭を真っ赤にして泣いている。
赤ん坊の細く頼りない首にかかっている自分の両手を見てカヨはゾッとした。あわてて両手を離すと赤ん坊を抱き上げる。
赤ん坊は泣きやまない。
カヨの目から一筋の涙が溢れて黒くうす汚れた頬を伝った。何に泣いているのか、カヨにもわからない。ただ次から次へ溢れ出る涙をどうすることもできなかった。
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