かなしい人

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それを怪しいと思った男はね、自分が浮気してるのを棚に上げて、『女が浮気してるんじゃないか、ならばその証拠を掴んでやる』なんて思ったんじゃない?その日も、仕事で遠くへ行くなんて言って出て、実際は庭の植え込みに隠れて探っていたんだ。 「最低な男だな!!」 「そうだね。でもその当時はよくある話だったんじゃないかな?」 「だとしてもだ!!」 植え込みに隠れて待っていると、綺麗に化粧をした女が出てきた・・・でね、その人、男の身を案じるような内容の歌を詠むんだ。 男はそりゃあもう感動したんだろうね、そんな女のいじらしい姿にとても『かなし』くなって、愛人のところに行くのをやめたんだ。 「おい。」 「なに?」 「『かなし』くなったってどういう意味だ?だって、」 「あぁ、『かなし』いってのはね、『愛し』いって書くんだ。日本語って素敵だよね。」 「そうか?」 「先輩には難しいかな。」
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