旋律の記憶

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久しぶりにピアノを弾いてみた。 部屋の片隅に、忘れさられたようにぽつんと置かれたアップライトピアノ。 何年ぶりだろう、全く触れる機会もなかったというのに、指の感覚は失っていなかったらしい。 二十世紀特有の、儚い沫のような旋律――確か、ドビュッシーのアラベスクと言っただろうか。 ――思えば、中1の時だった。 音楽祭があるからって、毎日一生懸命練習していたのに、指を骨折してピアノを弾けなくなって、それからは毎日泣いて過ごして・・・ そんな時に、君がこの曲を弾いてくれた。 私の初恋だった――それからはクラスも離れてしまったし、結局そんなに話す機会もなかったけれど。 この曲はまるでその初恋のよう―― 私にとってはもう思い出だけど、色褪せない淡い気持ちは、この曲を覚えている限り、きっと忘れない。
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