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それから半月、晃はよく戦った。もちろん敵とではない。
最初は国内において要塞を築いたり訓練をしたりして過ごしていたが、人員不足なのだろう、思ったより早い段階で南方の激戦地へ送られた。
そしてその戦場で彼は、同じ部隊の仲間が死ぬところを何度も見た。
ジャングルに潜み、目の前を歩く敵兵をやり過ごしたこともあった。
だが彼の銃は、肩に掛けたまま、いつも飾りであった。
撃ったこともなければ、銃の先に付いた刃で人を突いたこともない。誰一人傷付けず、自分も傷付くことなく、芳子のもとへ帰ろうとしていた。
ここへ来て何日経っただろうか。8月も半分ほど過ぎていたはずである。晃の部隊はほぼ壊滅状態だった。彼の他に5人の仲間が生き残っていて、この2日ほどは洞窟で過ごしていた。
銃声も敵の気配もなかったが、ラジオや無線など、情報を手に入れる術もなく、戦況がどうなっているかもわからない中で、ある者は、6人で降伏しようと言い、またある者は、
「天皇陛下の軍隊に降伏はない。誇りを捨てて命乞いするぐらいなら、全員で自決しよう」
と訴えた。
「最期の最期まで戦おう。玉砕あるのみだ」
と言った者もいた。
晃は黙っていた。
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